以前、人の髪の毛、いわゆる「頭髪」は熱履歴検査が難しいことをご紹介しました。
頭髪は毎日のようにドライヤーで加熱を受けており、その温度は時に100℃を超えていたからです。
でも、頭髪のようにドライヤーで加熱されない部位の毛ならどうでしょう?
毛に含まれるタンパク質によって加熱の有無が分かるのではないでしょうか?
そこで、人の体毛を使って実験してみました。実験に使用したのは下の方の毛です。
毛根から1cm程度と毛先付近は切り捨て、毛の中間部、約1.5cmを使用しました。
加熱条件は120℃1分間です。
添付したグラフは熱履歴検査の結果です。
青線が加熱前の毛、赤線が120℃で加熱した後の毛から得られたグラフです。
未加熱の毛では57℃から73℃付近にかけ、グラフが下降しています。
おそらく、毛髪に含まれるタンパク質が何らか変質していることによるものと思われます。
一方、加熱済みの毛では、同じ温度帯にグラフの下降は見られません。
これは、頭髪の実験では得られなかった結果です。
また、複数回確認したところ、同様の差異が認められました。
このことから、人の体毛であれば加熱の有無、つまり熱履歴を調べることができることが明らかとなりました。
これまで、毛髪において加熱の有無を調べる方法はカタラーゼテストしかありませんでした。
しかし、カタラーゼテストは、毛根の切れた毛には使えず、100℃近い加熱しか判別できないなどの課題を抱えていました。
一方、熱履歴検査では、上記の結果を踏まえるとおそらく80℃程度の加熱から判別でき、毛根も必要ありません。
見て分かる通り、得られたグラフは微妙な差異で、まだまだ技術的な検証は必要です。
しかしながら、これまで不可能と思われていたことが、また一つ可能にできそうです。
(リニューアル前のホームページから転載、加筆)